内製化を進める上で重要なプレス・ポストプレスの連携
㈱アイ・コーポレーションは、1993年に現在の大森に本社・工場を構え、8カ所に点在していた印刷・製本を集約した。同時に菊半2色機と4色機を入れたが、直需の拡大に伴う菊全判印刷に対応するため、2005年には、品川(東大井)の居抜きビルを購入、念願であったリスロンの菊全判4色印刷機を導入した。
「その時代は、工場のスペースに制限があり、半裁機しか置けず、菊全ものは全て外注していましたが、菊全判4色印刷機の導入で内製化しました」 と語る上條社長は、時代の変化や顧客の要望に合わせ、これまで設備の更新を続けてきた。
そして2015年、新たにH-UV搭載リスロンS26(菊半裁4色オフセット枚葉印刷機)を導入した。その背景として、印刷業界全体の変化を挙げる。
「印刷業界には、企画など川上の工程から攻めていくことが大切な時期がありましたが、現在は、デジタル化で顧客がデータを制作してくる時代です。昔は製版代、版下代などプロセスごとに収益を上げることができましたが、それらがなくなってきている。どこで稼ぐのかを考えなければならないし、さらに、ネット印刷の登場により短納期化が求められています。これらの変化に対応するため、H-UV搭載リスロンS26を導入しました」
同機の導入が、具体的にどのように貢献したのか。その一つがプレス・ポストプレス連携の効率化による、収益の向上だ。
「それまでは、油性で片面を刷ってから上がり面を刷るまでや、プレス後にポストプレスに回すまでに乾燥するスペースが必要なため、工場に仕掛かり品が滞留してしまい、近隣に作業場と紙のストックスペースを借りていました。速乾性の高いH-UVに変更したことで、例えば、工場の1階でプレスした後にすぐに2階に上げて製本できるようになりました。現在は、H-UVの速乾性の高さを生かし、4台の折り機をフル稼働しています」
導入の効果として、油性印刷で抱えていた裏付きや紙粉などの課題も、改善されているという。
「昔ながらのより広いスペースの必要なUVは考えていなかったが、KOMORIのUVの進歩は素晴らしいと感じています。実際に仕事の効率は確実に上がっています。インキのコストは上がっていますが、作業効率と顧客に対するサービスを考えると、コストアップ以上のメリットが出ていると思います」
上條社長はK-サプライインキ「KG-911」 の採用に関しては、4社ほどのインキをテストしている。
「KOMORIならKOMORIの機械に最も相性の良いインキだろうと信頼していました。万が一不調があっても、素早く対応してくれるので安心です」
H-UV搭載リスロンS26は機動力と営業力も向上させる
H-UVの導入は、営業の立場からすると不安はなかったのだろうか。
上條営業本部長は 「油性とのマッチングが心配でしたが、導入先の生の声を聞いたり、導入後のCMSについて相談したりすることで解消されました。想定よりも、すんなり導入・稼働できました」と、導入当時を振り返る。
H-UVは短納期の求めに対するレスポンスという側面が強く、油性で刷った案件の増刷にもリスロンS26が使用されている。
「H-UVの導入で営業活動も変わりました。従来の油性は1日目に片面を刷り、2日目にもう片面を刷るという2日間の日程を取っていましたが、H-UVは1日で済み、短納期を希望する顧客からの引き合いが増えています。また、社内的にも1日で返せるということは従来よりも1日余裕ができます。その1日をうまくコントロールすることで、全体の機動力と営業力の向上につながっていくと考えています。現状は油性に余裕があり、H-UVが埋まっています。リスロンS26が主力になっていると感じています」
工場内の紙の流れがスムーズになり工場全体の回転も向上
リスロンS26の導入効果を、最も身近に実感しているのは鹿島工場長だ。
「印刷工場は、スピードと品質が最低限必要な時代になっています。導入から2年間で、品質・効率ともにかなり向上しました。H-UVは、今の時代に最も適しているのではないでしょうか」
具体的な品質については、「色に対してもですが、原稿に対してどれだけ忠実に印刷できるか、油性で対応していたものが、リスロンS26ではどのように出るかと不安でしたが、K-サプライインキ 『KG-911』 を使ってテストした結果、油性に近い色が出ました。顧客にも確認してもらい、『問題ない』 という回答をいただいています」 と続け、さらに「紙粉がなく工場内の環境が良くなった」「工場内の紙の流れがスムーズになり、工場全体の回転が上がった」 とメリットを挙げる。 「今後はH-UVの発色の良さを生かした仕事を増やしたい」 「特殊原反をやりたい」 という声が出る中、上條社長は今後の展望を次のように語った。
「これらの効果を踏まえ、2台目の導入も検討しています。顧客、特に大手企業はビジネスがどんどん多角化、統合化し大きくなってきています。弊社は現在、50人弱でやっていますが、ちょうどいいスタッフと設備だと感じています。会社の規模は追わず、顧客の要望に、常に身近な存在として応えられる組織にしていきたいです」