デジタル印刷ならではのビジネスモデルが必要
信頼性の最も高いメディアといわれている紙メディアが今後どうなるか、印刷業界のみならず、多くの人の関心事となっている。それに対して、㈱廣済堂の浅野社長は、「紙メディアの良さは、一覧性の高さなどさまざまなものがありますが、今後、ハイクオリティーなものはプレミアムメディアとして価値を上げていくとみています」 と語る。デジタル印刷は登場以来ずっと、印刷クオリティーという面でオフセット印刷と 比較されてきた。
「デジタルが登場した当初は、オフセット印刷との品質の比較から入ってしまい、〝小ロットの印刷物はデジタル〞という単純な図式になってしまいました。 しかし現在は、デジタルでなければ表現できない、デジタルならではのビジネスの在り方を創造していかなければならないと考えています」 と浅野社長。今年6月にインプレミアIS29(29インチ枚葉UVインクジェットデジタルプリンティングシステム)を導入し、デジタルならではのビジネスモデルを模索している。
導入の背景について 「現場からインプレミアIS29を色校正で使いたいとの声もありました」。しかし、それは本来の使い方ではないと続ける。
「デジタル印刷機はドットロスを考えなくてもリニアに出力できます。インプレミアIS29を色校正に使う場合、色調再現力がオフセットを凌駕しているため、スペックダウンして使う必要があります。でもそれは本来の使い方ではありません。再現できる色調の広さをフルに生かす使い方が必要なのです」
具体的には、どのような使い方が考えられるのか。浅野社長は、その一つがグラフィックアーツのジャンルだと言う。
感性に訴えかける作品づくりがインプレミアIS29なら可能
「インプレミアIS29は再現できる色調の広さから、感性に訴えかける作品づくりの世界が広がります。私たちだけで何かをしようと思わず、フォトグラファーやグラフィックデザイナー、イラストレーター、エディターなど、クリエイティビティーの高い方々と組むことが重要です。そのために、私たちの感性を磨いていく必要があります。技術的に可能であっても、感性が反応しなくては作品づくりはできません」 と、浅野社長。
中村部長も、インプレミアIS29の使い方を推進するには、クリエーターの理解が必要だと述べる。
「クリエーターはデジタル否定派が多いのが現状です。なぜならこれまで比較検討してきたデジタル印刷機は品質が満足いくものではなかったから。でもインプレミアIS29の品質を見せた時、『これなら問題なく使える』 という声がありました。その声に背中を押され、インプレミアIS29一本でいこうと決めました。今は多くの方に色域の広さや印字品質の高さを知っていただいている段階です。そのためにトップクリエー ターの方と作品づくりを進めています」
色域について、出力チームの藤井チーフは、「当社は同人誌の仕事も多いのですが、オフセットではRGBで入稿されても、CMYKに色域を狭めて印刷していました。しかし、インプレミアIS29はRGBのデータをそのままの色域で出力でき、仕上りに納得していただいています」 と広色域の強みを実感している。
また、中村部長はインプレミアIS29の選択理由として 「当社が使っているオフセットの印刷用紙を網羅できていたこと」「両面をワンパスで刷れること」を挙げる。廣済堂では出版社の仕事が多く、何十種類という用紙を使っている。インプレミアIS29なら、紙の種類を問わず、従来の品質を再現できているという。「K-カラーシミュレーター」 の存在も大きい。中村部長は 「当社では、K-カラーシミュレーターを色合わせの軸にしています。他社製のCMSソフトと比較しても低価格なのに、驚くような高性能でした。許容差は用紙の種類によっても異なりますが、ΔEだと、1以内です。現在は、2以内ならゴーサインを出していますし、コート紙では1以内でいけています。また、導入によって、プレスとプリプレスとの協働や連携が促進され、印刷物の品質も高まりました」と同ソフトを高く評価する。藤井チーフも 「オフセットとデジタルを合わせ込む場合は、K-カラーシミュレーターを必ず使っています。チャートを印刷して、それを測色したデータを基にプロファイルを作成することで、いつでも正確に再現できます」 と利便性の高さを語る。
デジタル印刷のノウハウを蓄積し次の時代で優位性を持つ
浅野社長は今後、インプレミアIS29を含め、デジタル印刷とどのように向き合っていくのか。
「デジタル印刷はまだ発展途上であり、印刷機の主流ではありません。しかし、3年経てば別の次元へと進化していることでしょう。デジタル印刷はIoTやAIなど、イノベーションのきっかけとなり得るものと親和性が極めて高く、それらに対応していくためにも、今からデジタル印刷のノウハウを蓄積していくことが大切です。KOMORIは技術のイノベーションでインプレミアIS29を誕生させました。私たちのイノべーションは利活用技術です。そして、『発注者にいかに感動してもらえるか』が責任だと思っています」
廣済堂は今後、インプレミアIS29を使い、デジタル印刷機の利活用の革新を起こしていく。
※記事内容は、ONPRESS No.204 2018年1月号より転載しています。